「食べていますか?」
先ほどザガンに追加で渡された茸を味わっていたあなたに、クロウが声をかけてくる。その手には三本もの串が握られていた。どことなく間抜けな姿は珍しく、思わず笑ってしまったあなたにクロウは気恥ずかしそうにしながら訳を話す。
「俺キノコは食うなってばあちゃんに言われてるんで! と隊員にもらったんです。あなたに分けようと思ったのですが、そちらもいっぱいだったようですね」
あなたが並べていた串の数を見て、残念そうに零す。あと一本くらいなら問題なく入りそうだとは、あえて伝えなかった。
「本当に師匠も人使いが荒い。一瞬喜んでしまった私はまだ修行が足りないんでしょう」
隣の切り株に腰を下ろしたクロウの言いたいことはあなたにもよくわかった。あの師匠がただで丸一日も休みをくれるわけもないとこれまでの経験から思い知っていたのに、魅力的な提案につい心惹かれてしまったのだ。師の手のひらで転がされているというのは、弟子としてなんとなく悔しいものである。プライドの高いクロウには尚更だろう。
「まあ茸に罪はありませんからね。いただきます」
こんがりと美味しそうに焼けた茸に、口をつける。大口を開けて頬張る人間が多い中、彼の食べ方は綺麗だ。食べながら話すということもしないため食事中は静かで、その静かさが今のあなたには心地がよかった。たまにはのんびりと紅葉を眺めるのも悪くない。遠くでは、隊員たちが一発芸大会を始めていた。エルが呆れた風に彼らをみている。任務中であれば窘めなければならない立場であるあなたもクロウも、今は休暇中だと好きにさせることにした。
穏やかで贅沢な時間だった。ともすれば日々の戦いを忘れてしまいそうになるまでの。眼前に広がる色鮮やかな紅葉がそうさせたのかもしれない。明日もまた頑張れそうだ、と考え、やはり師匠の思うつぼだなと一人笑う。嫌な気はしなかった。
普段よりもゆったりとした動作で一本、二本、と食べ終え、三本目に手を伸ばす。すべて自分で食べることにしたようだ。三本目はすでに冷めてしまっていただろうが、彼は美味しそうにしている。
クロウに串を渡した男の名と階級は、クロウももちろん知っているはずである。だが、彼の想いまではおそらく理解してはいない。隊長は隊員との接触を避けたがっていても、相手も同じだとは限らない、ということを。おどけた風にしか渡せなかったのだろう隊員の気持ちを考えると、少しやるせなさも覚える。しかしそれを言葉にはしなかった。代わりに、あとで話しかけてみようと密かに決める。
隊長は満足そうに三本とも食べていたと告げた時の相手の顔を想像し、あなたは口元に笑みを浮かべた。