ゴエティア-ファンブックで生じた矛盾

ゴエティアクロスファンブック4P目に記載されている「あいつはソロモンへの抵抗として自らを封印するという末路を辿った」という一文がゴエティア本編と矛盾しているという話がしたい記事です。
念のため言っておくと、批判するつもりは一切ありません。整理したいだけです。

まず、何が矛盾しているのか。

ゴエティア-千の魔神と無限の塔-
あいつを封印したのはアスタロト。理由は『あいつを王(奴隷)にしたくなかったから』

ゴエティアクロスファンブック
あいつを封印したのはあいつ自身。理由は『ソロモンへの抵抗』

簡潔にまとめただけでも話が変わっているのがわかるかと思います。
あいつの並行存在であるゴエティア主人公が地獄に召喚されるに至ったのは、「封印されたあいつが王にならなかったせいで彼の代わりが必要になった」ためでした。
あいつが封印されたことによりゴエティアの物語が始まったわけです。物語上、重要な要素です。

封印されるまでの経緯


初めて詳しく語られたのは第四塔界です。
そもそも地獄における「王」とはこの世界の、ソロモンの奴隷でしかありません。
召喚された12人の候補者同士で行う「候補者争い」の勝者は予め定められています。要は出来レース。
しかも王になって力をつけた者は地獄の熱量が不足すると補うために殺されてしまいます。
候補者たちはその事実を知らされていませんでした。
あいつの同期、先代候補者の一人であるナータンは僅かな手がかりから真相を突き止めます。

あいつが王となることが最初から決められていたことだ!
誰も、あいつ自身すらそれを知らず、競い、傷つき、高みを望んだのに!

それまでの全てのこと、俺や他の候補者の苦悶、それに──
あいつ自身の感情すら、何もかもバカにした用意された悲劇。

苦楽を共にしたからこそ、良い配下となる?
冗談じゃない。何もかも冗談じゃない!

俺は円卓にはつかない。あいつの友人でもある以上、絶対につかない。
これまでの全員の、全てを無駄にしないためにも──
(修魔の塔 塔魔目録)

全てが仕組まれていたこと、このままではあいつは奴隷になるしかないことを知ったナータンは憤慨しました。
そして、この出来レースを壊してやろうと目論みます。誰にも相談せず、独断で。

自らを石とし、この呪詛と塔を永遠に残そう。
あいつがいつか倒れ、次のレースが始まるときに備えて。

いつかこの出来レースが崩れ、せめて一部だけでも純粋になるように。
候補者の数が少しでも減るように。くそったれな法則を打ち破れるように。

いつかこの塔を訪れ、ここまで進んできた候補者よ。
お前が誰かは知らないが、塔の先にはまだ情報を用意してある。

お前の他の候補者は11人か? 円卓と言う単語は出てきたか?
もしそのどちらかでも違うのであれば、少しはこのルールに風穴があいたんだろう。

俺が石になる以上、欠員が生まれ、何か法則が崩れる。
そうなっていれば、少しは救われる。俺も、きっとあいつも。
(修魔の塔 塔魔目録)

彼が選んだのは「自らを封印する」ことでした。そうすることでこれまでの法則を崩せると考えたからです。
が、ナータンは仲間を失ったあいつがどういう行動を取るのかまでは予想できていませんでした。

アスタロト「だが、あやつは諦めなかった。自分が王になれば、お前も戻せる。そう思ってしまったのだろう。真相に気づいていながら、なお、な。奴隷でもいいと思ったのじゃろう。魔神や、お前やルシエラがいれば」
(第四塔界 ナータンの言葉 Ⅱ)

アスタロト「お前は、大切な友を救うためならば、地獄の奴隷になることも厭わなかった。真相を知ってなお王になろうとする馬鹿者などいるはずもないと思っていたから、あの時はひどく驚いたものだ」
(基底心核 回想:金剛)

あいつは自分が奴隷になってでもナータンを取り戻せるのならかまわない、と王を目指します。
そんなあいつを止めたのは、アスタロトでした。アスタロトもナータンと同じく、あいつを奴隷にはしたくなかったのです。

アスタロト「あの時、確かに奴隷の毒牙がお前に迫っていた。自らの世界のために殉じ、この世界の皆すらも救おうとするお前が破滅する様など、見たくなかった。……立ち止まって、ほしかったのだ」
(基底心核 回想:金剛)

あいつに王になって欲しくなかった、立ち止まってほしかった。けれどあいつは立ち止まってはくれなかった。止めるために、誰にも相談せず茶番を起こします。

ナータン「これまでのことを調べて想定はできた。アスタロト、お前はあいつが王になる寸前に、自らの存在が消える覚悟で、あいつに逆らったな。魔王に争いを持ち掛け、乗らせ。魔王と魔神で戦争を起こし、玉座に至れないようにした」
アスタロト「……そうだな。他の魔王を騙し、争った。茶番を終わらせぬために、茶番を起こした」
(第四塔界 ナータンの言葉 Ⅱ)

アスタロト「……お前が基底を変える未来もあったかもしれぬ。妾が茶番を起こさなければ、お前が絶対の王となり地獄の奴隷になどならぬ都合のいい未来も――。――あり得ていたかもしれぬ」
(基底心核 回想:金剛)

この時アスタロトは魔王たちを裏切っています。

フルフル?「ふっふーん♪そう言われたら仕方ないね! あのとき以上に張り切っちゃうぞー! だから――スートっちも、もう私を裏切らないでね☆」
(夢枕に現れしは――【フルフル】)

グレモリ?「あの候補者に力をつけさせるため、ね。かつて私たちを裏切ったにも関わらず、どの顔でそうしてものを頼むの?」
(夢枕に現れしは――【グレモリ】)

魔王を裏切り、魔神と戦争を起こした。その結果、アスタロトはあいつを封印することに成功しています。

アスタロト「つい最近、プレイヤー名たちがこの塔界を訪れる直前に……あやつが通った痕跡がある」
ナータン「そんなバカな話があるかよ。あいつはお前が封印してるんだろうが!」
アスタロト「ああ、そのはずだ。一体どうなっている……?」
ナータン「まさか、あいつの封印が解けていて、何らかの要因でこの世界を彷徨い歩いているとか……」
アスタロト「妾の封印がそう簡単に解けるはずもなかろう。第一、封印が解けたのならば妾にもそれが分かるはず」
(第五塔界 辿るその先)

ベリアル「なんで――「あいつ」がこんなところにいるんだよ? 「あいつ」はアスタロトが封印してるんじゃないのかよ!?」
(第六塔界 忠誠の刃)

物語終盤でもあいつは封印されたまま、本編には登場しません。他者から語られるのみです。

・先代候補者の一人だったナータンは自ら石になった。
・石になったナータンを取り戻すため、あいつは奴隷になる覚悟で王を目指した。
・王になる寸前のあいつを封印したのはアスタロト。そのために魔王たちを裏切った。
・封印されたあいつの代わりに並行存在のゴエティア主人公が召喚された。

この設定はラストの章「基底心核」でも変わらず、終始一貫しています。
ではどうして、ファンブックではあいつ自ら封印したことになったのか。
「あいつ=ゴエティアクロス主人公を後付けした弊害で、あいつがソロモンの目的を知りながら王を目指すのは彼の性格上あり得なくなってしまった」「地獄編の続きとして考えるとその方が自然」ではないかと思っています。
第四塔界と第十塔界以降ではあいつの設定が大きく異なっています。
当初あいつはゴエティア主人公と同じ近未来の世界出身でしたが、第十塔界以降はソロモンと同じ世界から召喚されたことになっています。ゴエティアクロスと結び付けたためだと思われます。
そうなってくると、ソロモンの目的もこの世界の仕組みも知った上で王を目指すのはおかしくなってくるんですよね。

ソロモン「たとえお前が空になったとしても、繋いだ縁まで消えることはない。その縁は、来たる地獄での戦いにも役立つだろう。そしてお前が王となり、その熱量の全てを捧げるのだ……」
(ゴエティアクロス 6部地獄編1章1節 そして繋がる物語)

自分が王になって熱量を捧げることは、他世界の熱量を奪ってでも自分たちの世界を救おうとするソロモンに賛同することになるので。
ソロモンへの抵抗だった、ってエピソード自体は主様らしくて好きです。
でもそうしちゃうとゴエティア本編での話も変わってきちゃうんだよな~~!!!!

私はナータンとアスタロトのあいつを大切に思うが故の葛藤が好きだし、自分たちが思うようには事が運ばなかったのが好きなんですよね。
ゴエティア-千の魔神と無限の塔-の物語としてはファンブックの設定を受け入れることは難しい。
ゴエティアクロスとの繋がりに重点を置くなら主様らしい選択でいいと思う。
って感じです。ずっと引っかかっていたのですっきりしました。