きらきら、きらきら。
洗い立ての真っ白なハンカチに包まれたのは、五色の小さな飴。わくわくしながら紐解き、ピンク、オレンジ、黄色、緑、白と一つ一つ数えていく。いくつもの突起が太陽の下で輝いていてお星様のようだと思った。
「クロウやっと見つけた!」
春の陽気な風が花びらを運ぶ、この世界では珍しくも穏やかな一日だった。天気が良いからと木に寄りかかって本を読んでいたクロウの下に、息を切らした幼馴染の少女が駆け寄ってくる。
「ごめん、何か用だった?」
「用っていえば用かな!」
にこにこと無邪気に笑いつつ、クロウの隣に腰を下ろす。どうやら大分探させてしまったようで、朝はまとまっていたはずの髪があちこち乱れてしまっている。しかし本人には大した事ではないらしい。
「ご機嫌だね」
「わかる?」
「うん、全部顔に出てるよ」
えー? と不思議そうな声を上げていても、彼女は満面の笑みを崩さない。よほど良いことがあったのだろう。師匠に褒められでもしたのだろうか。そうであれば誇らしい事だと自然とクロウの頬も緩む。
「クロウと一緒に食べようと思って持ってきたの」
なんだろうかと待っていれば、不器用に結ばれたハンカチを解き始める。中から出てきたのは、たくさんの星だった。
「これは……?」
「コンペイトウっていうんだって! 出産とかが重なって厨房の人手が足りないって話してたから、お手伝いしたらくれたの」
金平糖。確か砂糖と下味のついた水分のみで作る菓子の一つだ。知識としては頭に入っていても、実際に目にするのはクロウもこれが初めてである。
「きれいでしょう?」
そうだね、と頷く。こういったものに興味はない男のクロウすらも魅了して止まない美しさを持っていた。宝石箱におもちゃや宝物を詰めて、大事に大事にしてきたものを数年経った後に「何しまってたかな」と心躍らせて開けるかのような、どこか少し夢見がちででも懐かしい気持ちで胸がいっぱいになる。
「なんでだろうね、食べたことないのに懐かしいって思うんだ」
同じ事を考えていた、とは照れくさくて言えなかったけれど、彼女も今こんな気持ちなのかと思うと嬉しくなった。
「でも、貴重なものなんじゃ? 作るのに手間がかかるんだとか」
「そうそう、二週間くらいかかるって言ってた! さすがクロウ、詳しいね!」
「ひとりで食べなくてよかったの?」
クロウが何気なく尋ねると、彼女は笑みを益々深くする。
「あのね、おいしいものはすきな人と食べるともっとおいしいんだって! だからクロウと食べようと思って!」
すきなひと。迷いも揺れもなく紡がれた言葉が、隅に残っていた雪を溶かす春の陽だまりのように全身に染み渡っていく。生きていていいのだと、肯定して貰えた気がした。多分彼女にしてみれば深い意味もないのだろうけれど、だからこそ何の嘘もないと伝わってくる。
「ししょーには内緒だよ。三人分はないし大人はもっといいもの食べてるだろうから」
「わかった、秘密にするね」
「うん、ふたりの秘密」
にかっといたずらっぽく笑う彼女につられて、指切りを交わす。幸せは目に見えないものだと、誰かが言っていた。もしも形にするとしたら、目の前にあるこの笑顔になるに違いない。