「よっこい、っしょ」

 あなたは貴金属を詰めた麻袋を持ち上げる。ずっしりと手に沈み込み、この重みが協会の活動資金になるのだと自分を奮い立たせて歩き出した。

「ばばくさ……っ」

 ぼそりと聞こえた声の主を探し、あなたは無言で見つめ返す。聞こえていたとは思わなかったのか、あなたの行動が意外だったのか、リガルは不思議そうにしていた。

「なんだよ?」
「サタナエル様には「キレイだったのに」って言ってたのになーって」

 不満げに零したあなただったがリガルはまだ釈然としないようで、横からクロウが補足する。

「リガル、女性にばばくさいは失礼ですよ」
「そうだよ! 私リガルにキレイだなんて褒めてもらったことない!」
「顔隠してる奴が無茶言うなよ……俺お前の外套姿しか見たことねぇんだぜ」
「うっ」

 尤もすぎる突っ込みだった。リガル相手であれば素顔を晒しても構わないとあなたも思ってはいたが、頃合いが掴めず今日まで過ごしてきたのだ。フードを深く被った、性別さえ間違われる事が多々ある女を賞賛しろという方が無理があるだろう。特にリガルはお世辞を好まない実に素直な少年である。比べる相手が美しく着飾った女神サタナエル相手では尚更だ。

「で、でもクロウは!? クロウはお洒落した私だって知ってるでしょう!?」
「えっ」
「あーあ、飛び火してやんの」

 さあさあ! あなたはクロウにじりじり近づく。しかしクロウは一歩ずつ後ずさっていった。

「あなたは綺麗というよりも、か、か……」
「蚊?」
「あらあら、どうしたの?」

 三人が後ろをついてきていないことに気づいたのだろう、引き返してきたグレモリに尋ねられる。

「あ、ごめんなさい。すぐ行くね」
「ううん、私もサタちゃんも怒っているわけじゃないのよ。主ちゃんはかわいい、よねえ、クロウちゃん?」

 どうやら話は聞いていたらしいグレモリがにこやかに微笑むと、クロウは顔を真っ赤に染めて頷く。

「そ、そう、ですね」
「ほんとっ? ありがとう、グレおねーさん!!」

 美人に褒められて悪い気がするはずもない。浮き立つあなたは麻袋の重みも忘れて、サタナエルの背中を追った。

「ちょっとクロウちゃんが気の毒だったわね……お姉さん、口を挟むタイミングを失敗しちゃったみたい」
「クロウかっわいそ……」

黄金卿より親愛なる君へ