第四支部の支部長から書簡が届いた。珍しい事もあるものだ。支部長室で読み進めていると、そこに記されていたのは本部が壊滅したという衝撃的な内容だった。は、と漏れてしまった声を拾う者がいなかったのが救いか。

 ……アドニアはどうした。フランツの頭に真っ先に浮かんだのは同期の男だった。彼は昔から取り分け優秀で、今では魔導師長の座についており、数千人を超える魔導師の中で唯一特級の階級を持っている。それに、本部には彼の自慢の弟子だっているはずだ。一体何があれば、どんな化物が襲ってくれば彼らが敗北するというのか。俄かには信じ難いが、彼女がこういった性質の悪い嘘をつく人間ではないのはよく知っている。逡巡したのか、折り皺がついたままのそれを見ても真実で間違いはない。

「死ぬ時は呆気ねーなあ……」

 体重をかけた椅子の背が、ギシッと軋む。思えば、長い付き合いの椅子だ。買い替え時なのかもしれない。その姿でも負担は大きいのだな、と揶揄したのもアドニアだったか。

 親しかったのか、と聞かれるといや、と答える。ならば仲が悪かったのか、と聞かれればやはりいや、と返す。向こうも同じだろう。友人と呼べる存在ではあったし、彼が困っている時は手を貸してもやった。だが、死を悼んで泣くような相手ではない。恨み言もこれといって浮かんではこない。考えるべき事は、もっと他にある。

「なんて返事するか……めんどくせえ」

 どうせあの女は何を書こうが一緒だな、と一言だけ綴る。受け取った事が伝われば充分だ。

「あいつももっと可愛げのある顔してりゃ可愛いんだがなあ」

 彼女のしかめっ面が容易に思い描けて、フランツは一人笑う。こういう時こそ心に余裕を持たなければならない。上の人間が揺れては部下にまで伝染してしまう。アドニアだって、最期のその瞬間まで魔導師長であり続けたに違いなかった。

 決意を胸に秘め、隊員達に伝達すべく部屋を後にした。

Crisis