2025/6/26の更新をもって完結したゴエクロのメインストーリー。
全体を通して見ると、絶望と再起、あるいは絶望と救いの物語だったなあと。
必死の思いで掴もうとした僅かな光ですらたやすく奪われていく絶望の連続でしたが、救い上げられたキャラクターも多いんですよね。
例えば、『旧章1部4章 ヘイワな村』で初登場する3級魔導師のアルドラ。
メインキャラクター以外では初めてとなる顔グラフィック有の少年です。
リガルと同い歳くらい、リガルと同じ3級魔導師。平和村の調査のため、主人公たちを現地まで案内してくれます。
(旧章1部4章1節)
このかわいい子が仲間になるのかな? とつい期待してしまった直後、天魔がスプーンやフォークを彼の体に突き刺し、すくい、食べるというグロテスクな殺され方をしてしまいました。改めてひどいな。
惨状を目にしてしまった主人公たちを通して、「この世界に平和なんてものはないよ。そんなものはまやかしだよ。こんなにかわいい子だって容赦なく殺すからね」とプレイヤーにも思い知らせてきます。
さらには主人公たちが埋葬した死体を仲間に掘り起こされ利用される、運営に人の心はないんか? とゴエクロ世界を象徴する悲劇のキャラクター。
さらにさらに、新章では死を司るヤルダバオトに死者の魂を呼び起こされ、主人公たちと敵対してしまいました。いい加減安らかに眠らせてあげてよお!!!!!!
「見えますか、この傷が。スプーンで抉って、食べられたんです。こっちはちぎられて……」
……あなたはこれまで、数多くの死体を見てきた。だから、いまさら凄惨な死体を見ても動じることはない。だがその死体が動いて歩き回り、苦しみを訴え、縋りついてくるなら話は別だ。あなたの足が止まる。
「あなたが生きているのが間違いです。だって、あなたは罪人の子でしょう?」
(新章第4部4章1節)
その死に対して罪悪感を抱いている人物を呼び出す悪夢の中で、主人公を責め立てるアルドラ。
人間に、魔導師に恨みを抱えたアルドラは、ヤルダバオトに協力すると見せかけ……反旗を翻して主人公の味方になってくれました。
彼の目が生気の色を宿すことができたのは、魔導師になった日の決意が彼を支えたからです。
「主人公さんの話を聞いて、僕も目が覚めたんだ。あの日の、魔導師になった日の決意を思い出した」
「死ぬ覚悟を。死んでも、天を倒す覚悟を!」
「──僕は!! 暁の協会の魔導師だ!!」
(新章4部7章3節)
魔導師として生き、魔導師として死ぬ。天を倒し、平和な世界を取り戻すために。
たった15歳か16歳程度の少年が決めるには重すぎる覚悟。外伝でマナセが魔導書の契約の代償は単純に寿命を使うものが多いと話していましたから、おそらくはアルドラも寿命を差し出して契約したのだと推測できます。
増幅された死への恐怖で一度は揺らいでしまいながらも、彼は己の誇りを貫き通しました。
「世界を救った英雄の、その1人」
アルドラの幻影のフレーバーテキストがまた泣ける。
魔導師の階級の中では一番下の、3級魔導師。リガルが魔導師になって日が浅かったのを考えると、アルドラもそうでしょう。
彼の戦闘力は非凡なものではなかったはずです。村にシリウス隊と一緒に残っていたとしても、生き残れたとは思えません。
そんな少年のことを地上を勝利に導いたまさしく英雄が「英雄のその1人」と評価している。彼の生き様に、最大限の敬意を払っている。
死を覆すことはできなくても、最期まで魔導師の誇りを抱き仲間を助けて逝けたアルドラは救われたのだと思います。
ゴエクロの世界は、アルドラ以外にも多数の魔導師が登場します。中には名前がなく、顔グラフィックが使い回しのいわゆるモブも。
だけど、彼らもアルドラと同じように死ぬ覚悟を決めて戦っていた人たちです。500年間、血を流して天と戦い続けた同胞のことを、女神たちは決して忘れない。
覚悟を持って戦い抜いた彼らはかっこいいです。
旧章では見られなかった結末を見せてくれた新章に感謝感謝の大感謝です。
新章で救いを見せてくれたキャラクターといえば、アレイスターもです。
ソロモンによって56642回も時を巻き戻して戦い、精神が壊れてしまった果てに自分をこんな状況に陥らせたすべてのものへの復讐を決めたアレイスター。
主人公たちによって途中で止められましたが、2時間で地上の人間を焼き尽くせるほどの火力を持っていた彼は、6割もの人間の命を奪いました。ほとんどの地形が消滅し、草原は草の一本も生えないほどに焼き尽くされ、彼は大罪人としてその生涯を終えます。
「私は何になりたかったのだ……?」
「教えて、くれ……私は……何なのだ……?」
(旧章8部4章4節)
自分の存在意義さえ見失い、主人公との和解もできぬまま。
彼の子どもである主人公も、「大罪人の子ども」と自責の念を一生背負って生きていくことになってしまいました。
かつての彼は妻を愛し、子を愛し、子を血に塗られた輪廻に巻き込みたくないと拒絶していた優しい父だったのに。
二度と会えないはずだった彼と、アルドラと同じくその死に対して罪悪感を抱いている人物を呼び出す悪夢で再会することになります。
(新章4部4章3節)
死への恐怖に呑み込まれなかった彼は、子どもに声をかけるかのような優しい声音で主人公に話しかけました。本来の彼を取り戻しているのがわかります。
主人公は彼を罵倒するのではなく、生前は叶わなかった対話を選びます。
同じように時間を繰り返した自分だけがあなたの苦悩を共有できたのではないかと心残りを打ち明ける主人公を、「思い上がりだな。私の気持ちは誰にもわからない」と一蹴するアレイスター。
記憶を保持したまま56642回繰り返したアレイスター。
記憶を保持せず数100回繰り返した主人公。
自分ならあなたの気持ちを共有できたのではないか、あなたを復讐に走らせずに済んだのではないかという主人公の後悔も、同じであるはずがないと突っぱねるアレイスターもどちらの気持ちもわかるのがつらい。
だってアレイスターは「私の気持ちは誰にもわからない」と拒絶することでしか1000年もの時間を生きれられなかったのだと思うので。
今さら「あなたの気持ちが共有できたなら」と言われても、もうどうにもならない。そんな段階はとっくの昔に通り過ぎてしまったんですよね。ここで頷くようなら、彼は復讐なんてしていないんですよ。
でも彼の言葉は拒絶であると同時に、抱擁でもありました。
「だがそれでいいんだ。お前がそんな思いをする必要はない。共有できずに、よかったとすら思うよ」
「お前はお前の人生を進んでいいんだ……」
(新章4部4章3節)
血の輪廻に子を巻き込みたくなかった父としての想い。この時のアレイスターの言葉を、主人公は真っすぐに受け取っていました。
アレイスターとあなたは違う。
そして、あなたは生きていいと肯定されたのだ。
だから神にはならないし、世界と同化することはできない。
あなたはそうきっぱりとソフィアに告げた。
(新章5部5章6節)
神なき世界はいつ崩され去ってもおかしくない。ならば代わりの神を立てるしか方法がない、主人公ならこの世界で唯一神になる条件を満たせると告げるソフィアの提案をきっぱりと断る主人公。
生きたい、と自分の意思をはっきり持ってくれたことが、私は本当に本当に嬉しかったです。
主人公も自覚していましたが、以前の主人公なら提案を受け入れていたでしょうから。
承諾する姿勢を見せていたらキレ散らかしていた自信があります。やめなさい。
英雄にもなりたくなかった、ささやかな報酬で「すっかり汚れた外套の新調か休暇」を望むような人が、見ず知らずの人々の信仰で神になるなんてことがあってたまりますか。そんな歪な世界じゃいずれまた綻びが生まれると思う。
自分一人の命と世界を天秤にかけるのはとんでもない勇気が必要だったと思いますが、曲げないでくれてありがとう。父の愛がちゃんと伝わって良かった。
大罪人として生涯を終えたアレイスターが、子を想う父の姿を主人公の胸に刻んで逝けた。彼の言葉が、主人公の背中を押した。
彼の魂はヤルダバオトによって消滅し、転生が叶わなくなりましたが、後悔はないのでしょう。
旧章では彼の最期に虚しさや寂しさを覚えていたものでした。新章で彼が救われてよかったです。
でもヤルダバオト、おまえは許さない。
そして最後に、ゴエティアとは別の結末を迎えたソロモンの話です。
こいつまたソロモンの話をしてるな……と自分でも思います。一生言ってそう。
そのくらい思い入れが強いキャラクターの1人です。
神によって滅びが定められた世界を救おうとし、堕天使と魔導師を率いて反旗を翻したソロモン王。
けれど、天界大戦は地上側の敗北で終えました。
それでも諦められなかったソロモンは自ら地獄に堕ち、神に対抗する力を得るべく地獄を作り替えます。
地獄を維持するため、神を倒す力を蓄えるため、ソロモンは他の世界を滅ぼして熱量を奪います。
他の世界すべてを犠牲にしてでも、彼は己の愛する世界を救いたかった。
ゴエティア世界での彼はラスボスとしてゴエティア主人公の前に立ち塞がりました。
地獄を在るべき姿に戻したかったゴエティア主人公は、彼の悲願を打ち砕くしかなかったのです。
「さあ、「ソロモン」。永い永い君の戦いに、決着を付けよう。君の悲願と、僕たちの望み──どちらが勝つのかを」
(ゴエティア-千の魔神と無限の塔- 基底心核 レメゲトン・ソロモニア)
結果、ソロモンはゴエティア主人公に敗れ、消滅しました。
世界は分岐し、ゴエクロの地上編ではゴエクロ主人公が地獄に堕ちず、ゴエティア主人公が召喚されるきっかけになった事件も起きなかったため、ソロモンは地獄に留まっていました。
しかし、ゴエクロ主人公によって救われた世界を見届けたソロモンは地獄を無へと還そうとします。地獄に招かれた候補者がまだ存在するにも関わらず。
(新章2部4章5節)
「なんで……止まらなかったんだ。気付いてたんだろ。自分のやってることは創世神と同じだって。突然世界を滅ぼして、皆殺しにする化け物と同じことをしているって……だからこんなに荒れてるんだ。余裕がないんだ」
(新章2部3章3節)
「だとしてもよ! これまで長い間ひでぇことしてたんだろ!? その終わりが、ただ消えるだけでいいのか!?」
(新章2部4章5節)
創世神は二度とこの世界に戻って来ることはないだろう。あなたはどこかでそう確信していた。
「クソッ! どこまで身勝手なやつなんだよ!」
(旧章8部5章2節)
「創世神とソロモンがやったことは同じ」だと理解しているリガルが両方に「無責任に消えるな!」とキレているのは筋が通ってて好きです。
地上の民にそうまで言われるくらいのことをソロモンはやらかしているんですよね。
どんな事情があっても、始めてしまった責任は取らなければならない。だからサマエルは罪を償わずに消えることは赦しませんとソロモンを引き留めました。
「あなたは自責の念から逃れようとしているだけ。あなたほどの力があれば、できるはずなのです。救うことも、償うことも」
(新章2部5章6節)
この時サマエルが示した道が、ソロモンが神になる未来に繋がることになります。
神になる条件を満たした唯一の人間である主人公が拒否し、残る可能性はソロモンのみ。だけど、今のソロモンでは力が足りません。
再び他の世界を侵略して熱量を奪うか。
ラジエルの書を完全に消滅させる代わりに最大まで力を引き出すか。
何かを犠牲にするしか、手がありませんでした。
そこに生まれた、もう一つの選択肢。ラジエルの書と同等の力を持つラジエルの書の写本を所持したレンが現れました。
レンは、ゴエティアでソロモンが消滅した後の地獄を存続させるために心核になった観測者テウルギアの代わりに観測者の席に収まった少女です。
つまり、ゴエティアの時間軸からゴエクロの世界へ渡って来た存在でした。
「ゴエティア主人公が打ち倒すしかなかったソロモンが救われる可能性もどこかにあったのではないか」というゴエティア主人公の後悔をなくすために他世界へ干渉できる観測者の力を使ったのです。
ラジエルの書の写本──ノーネームと契約し、神になる条件を満たしたソロモンは、創世神を追い出して神になりました。
「私自身が神に等しきものとなり、神を討たなければならない」
(ゴエティア-千の魔神と無限の塔- レメゲトン・ソロモニア目録)
ゴエティアの世界では叶わなかったソロモンの悲願と執念は、こうして成就しました。
ゴエクロの世界で生きたソロモンが神には敵わないと承知の上で挑み、功績が500年経った今でも語り継がれていたから、知名度を満たせた。
ゴエティアの世界で敗北したソロモンの別の可能性をレンが探そうとしたから、力を満たせた。
両世界でのソロモンの軌跡がなければ成し得なかった結末です。
彼にとって、これ以上の救いと償いはないでしょう。
こんな風に救われる未来がくるなんて、ゴエティアをプレイしていた頃は思いもしませんでした。
私はかなりソロモンに同情的だった自覚はあります。止めに入ってくれる誰かを待っていたことを否定しなかった彼を想っては度々泣いていました。ちなみに誇張表現ではなく、リアルに大泣きしています。
本来はその役目を担っていたあいつはソロモンを止めることができなかったのもきつい。
同情する一方で、高圧的な態度にイラっときてはこいつ一発殴りたいな……と物騒なことも考えていたものです。だって普通に腹が立つんですもの。
ソロモン😭😭😭とソロモン💢💢💢は矛盾なく両立します。
サマエルが「あなたを愛していたなんていつ言いましたか?」と最悪の冗談を言って特大のダメージを入れてくれたのは清々しましたね。この一言でダメージが入るくらいにサマエルのことを愛していたんだな……と切なくもなりましたけれど。結局私にもダメージが入るっていう。
でも彼が救われたことで、私も救われました。
あなたの永い永い人生が、実を結んでよかった。これからも地上を見守っていてください。
ゴエティア-千の魔神と無限の塔-の物語を最後まで読んでよかった。
ゴエティアクロスの物語を最後まで読んでよかった。
幸せな時間をありがとう。