彼らを燃やしてあげて欲しい。主は、炎魔法を使える魔神達にそう指示を出した。
主の命令に逆らう理由はなく、魔神達はそれぞれ魔導書と宝珠を構える。しかし、一瞬の躊躇いが生まれてしまったのは、恐らく自分だけではなかった。
折れた柱の傍に倒れているのは、主の部隊の1級魔導師だ。陽気な男で、場を和ませるのが得意だった。隊長のクロウが冗談が苦手な性格であったものだから隊の空気は重苦しくなる時もあり、彼のおかげで和やかに任務を終われる事も多々あった。彼の横に腕を失くした状態で倒れているのは、眼鏡をかけた知的な男だ。今は血で濡れてしまっているが、青い髪がどこかバエルを思い出す男だったと記憶している。近くに倒れている男は、もう顔が判別出来ない。性別すらも分からなくなってしまっている者も多くいた。
本部の全貌を、魔神は知らない。主でさえも把握してはいないだろう。だが、彼らは決して遠い他人ではない。志を同じくした、仲間であったはずだ。
師匠、と主が消え入りそうな声で呟く。思わず彼の姿を探したが、どこにも見当たらない。すでに炎の中にあると主も知っていて、無意識のうちに漏れてしまった一言だったのだと思う。
初めに音を鳴らしたのはムルムルだった。少し間抜けな喇叭の音が、場違いにも響き渡る。続いて、彼女の意を汲んだアムドゥシアスがトランペットを重ねた。彼女達の演奏に合わせ、デカラビアやフェネクスが歌を奏でる。日頃は音楽性の違いを見せる魔神達とは思えぬほど、心が通じ合った切ない旋律。届くかは分からない。届かないかもしれない。でも、届けばいいと願う。
勇敢に戦い、尊い命を散らしていった同志達よ。どうか、安らかに眠りたまえ。