重くはないか、と幼馴染に聞かれた。
 何を指しているのか分からず聞き返せば、青水晶の事だという。確かにこの石は重いが、大量に採ろうとしていたリガルに釘を刺したのは他ならぬクロウだ。当然、小ぶりなものを選んでいる。しかしこの小ぶりな水晶一つで当分の旅費が賄えるのだから有難いものだと思う。自分と幼馴染の貯金が尽きた際にはどうしようか、という不安が解消されたのは大きな前進だった。これで、まだ戦える。

 問題はない、と答えたのに、幼馴染は何かを言いたげな目でこちらを見ていた。クロウの返事がお気に召さなかったらしい。見透かされているようで居心地が悪くなり、「足が止まっていますよ」と促す。視線が外れたのを確認して、そっとポーチに触れた。ずっしりとした重みが、ここに青水晶が存在している事を教えてくれる。

 それでは盗人と同じだ、とかつてのクロウなら言っただろう。本部が壊滅する前の、クロウであったならば。しかし今のクロウは、潔癖なだけでは生きていけないと知っている。知ってしまった。二度とは戻らないものがある事も。

 救えなかった命があった。守れなかったものがあった。あの日の絶望を、後悔を、血で染まりながらも息をする幼馴染を見た時の安堵を、きっと一生忘れる事は出来ない。リガルのように割り切って生きる事は、クロウには出来ない。けれど、戦い続けると決めたのだ。ならば、前を向かなくてはならない。人間くさくなってきたじゃないですか、と言ったのが人ならざる魔導書であったのは、なんとも皮肉が効いていたが。彼女なりに褒めてくれたのだなとは分かったけれども。

 でも、過去の自分が彼女の台詞を聞いたなら、褒め言葉だとは受け取らなかったに違いない。

 ――――エル。それは本当に、成長ですか?

 重くはないか、と再び問われた気がした。今度は、本心で答える。
 重いですよ、とても重い。

命の重み